異界からの絵 (2)

創作小説の続きです
ヤケに速いペースでアップしていると思う方もいらっしゃると思いますが、実際すでにエピローグまで書ききっております
長すぎるので細切れにしているわけで・・・

というわけで今回は、どちらかというもやもや感アップの回かと


直弥が次に意識を取り戻したところは、病院のベットの上だった
「直弥!」
ベットの脇には涙目の両親が張り付いていた
「父さん、母さん・・・?」
「良かった・・・目を開けてくれて」
「先生、ありがとうございます」
喜ぶ両親の姿を見て、直弥は薄ぼんやりとだがとりあえず自分は何らかの形で助かったのだ、と言うことを知った
「先生のご子息がうちの息子を見つけてくださらなかったら、今頃どうなっていたか・・・」
父がそう言って目を向けた先には、見覚えのある近い年頃の男子が立っていた
「いやぁ、ま、散歩のルートをたまたま変更したら、直弥君を見つけたわけで」
思い出した
たしかD組の天堂という青年だ
頭が良く容姿もそこそこ。町内でも著名な『天堂病院』の御曹司として、学年中から注目されている。秀才肌でどこか浮世離れしているため、逆に目立つタイプ。なので、あまり人と交流のない直弥でも、何となく印象に残っていたのだ
「息子が発見したのが早かったせいか、出血は多いが傷が大したことが無くて良かったですな」
院長とおぼしき男性はそう説明する
大したことがない?あんなに深々と胸を刺されていたのに?
しかし言われてみれば、胸の辺りに特に痛みはなかった。体全体を支配する倦怠感だけが、確かに出血が多かったことを物語っているように思えた
「あの・・・僕・・・」
「大丈夫よ直弥、今警察の人がいろいろ捜索してくれているからね」
母はそう言って直弥の顔を撫でた
「こんなに冷たくなっちゃって・・・怖かったでしょう」
「あ・・・うん・・・」
「ちゃんと威人君に礼を言うんだぞ」
父に促され、直弥は自分を助けたという少年に目をやった
「ありが・・・とう」
「ま、せいぜい養生しろよ」
ぶっきらぼうに言い返すと、威人は病室を出て行った
「さて、貧血を改善するために、息子さんにはしばらく入院してもらうことになります。詳しい説明をご両親にしたいので、こちらに・・・」
院長が仕切り直すように言うと、母は名残惜しそうにしながら父に連れられて病室を後にした


『○日に○市の○○公園で起きた暴行事件では・・・』
TVニュースでは、直弥が襲われたことが報道されている。警察が動いて、例のいじめグループを追っているようだ
ほとんど回復していた直弥は、意識が戻ったその日のうちに一般病棟の個室に検査のために移された
傷はそうでもないのに何故個室なのかというと、「他の病室が満杯だから」だそうだ
緊急のことで個室を紹介したから、と言う理由で部屋代は病院側が持つことになったという
がらんとした部屋に一人寝泊まりすることになった直弥はその夜、こっそり病院着をめくって胸を見てみた
そこにはあれだけの目にあったのに、ほんの数針縫われただけの傷跡があるだけだった
何だか実感も何も沸かない。夢の中にいるようだ
とても、あの傷から「すんなり」回復したとはとても思えない元気な自分・・・一体何が起こったのだろう?
直弥は記憶をたどった。刺されて・・・倒れて絵を見て・・・あれ・・・その後・・・どうしたんだっけ・・・?
記憶に霞がかかったようになって思い出せない。何か、とても大変なことをしたような・・・
「どーした西原?ぼっとしてよ」
突然威人に声をかけられて直弥ははっと現実に引き戻される
「血が抜けすぎて頭が回らなくなったか?」
「・・・イヤ、ちょっと考え事を・・・」
言いかけて、直弥は威人を見た
「どうして君がここにいるわけ?」
「ご挨拶だな。オマエの担任に頼まれて、課題やらなにやら持ってきてやったんだよ」
事件の次の日にやるはずだったプリントが数枚、直弥のベットの上に投げ置かれる
「一応重傷の怪我人に宿題も何も・・・」
「先公も心配してんだろ」
面倒くさそうに応える威人
(先生が?そんなことありえないし・・・)
直弥は心の中で呟く
そんな鬱な気分で、つられて威人の態度もちょっと鼻についてしまう
あの日の対応もそうだが、威人は本当に素っ気ない対応ばかりだ。人によっては相当感に障るだろう(元々そう言うタイプなのかどうかは分からないが)
といっても、人付き合いが下手な直弥にしてみれば、べたべたされるよりはマシであった
「無理にやる必要はないとサ。暇つぶしにやっといたらどうだ?」
「・・・うん、そうする・・・」
「じゃ、俺は帰るから」
「ありがと・・・」
形ばかりの挨拶を終えると、威人は足早に病室を後にした
「彼の様子はどうだ」
院長室では威人が父親と話をしていた
「いたって普通だね。何の異常も無し。念のために適当に置いたアミュレットにも全く反応無しだ」
「身体検査でも大きな変化は見られません。ただし、肉体の再生については"彼ら"と同等の驚異的な能力を発揮しています」
同席していた別の医師がカルテを見ながら合いの手を出す
「調べたところ、"王"と接触しているのだけは間違いないが、そこでどういう"契約"があったのか、本人も記憶が曖昧みたいだ」
「覚えていないのか、記憶を操作されたのか・・・鍵は、記憶の最後にあった"絵"か」
院長は同じカルテのコピーを見ながら言った
「彼から目を離さないよう十分注意してくれたまえ」
「分かってるよ、親父」
翌日、直弥の病室では母親の金切り声が上がっていた
というのも、直弥が暇つぶしに絵の続きを描きたいと言い出したからである
しかし高校三年と言えば大学受験本番
直弥は決して頭が悪い方ではないが、この大事な時期に学校に通えなくなったと言うことは少々痛手なのは確かだ
「状況が分かってるの直弥?うちには貴方を浪人させる余裕なんか無いのよ。ちゃんと勉強して良い大学へ行って、安定した会社に就職しないと、貴方の人生が・・・」
母親にしてみればお金はともかく、ここまでの状況で絵にうつつを抜かしている場合ではない、と言うように考えても無理は無かろう
「でも・・・あの絵だけは描き上げたいんだ」
「あなたねぇ・・・」
「良いんじゃないですか?お母さん」
突然院長の声が部屋に響いた
「あんな事件にあって、きっとご子息は気持ちが沈んでらっしゃる。そうなると体も回復しづらいものです。そんな中、絵を描くのは情緒の安定にとても良い。体と心を回復させるのにうってつけではないでしょうか?」
「えっ・・・せ、先生がそうおっしゃるなら・・・」
医者自身にこう言われては、いくら母でも納得せざるを得ない
翌日になって母は渋々画材道具を病室に運んできた
それから直弥は、点滴が終わった後の暇な日中に絵の色づけを始めた
夕方になると決まって威人がプリントを持ってくるので、勉強はその後にやると言うことで母親と合意に達したらしい
最初は下絵にそのまま水彩で色を付けようとしたのだが、それでは絵にパワーが足りないような気がして、油絵のカンバスに一から書き直してから彩色をすることにした
「へ~ぇ、うまいもんだなぁ」
不可思議な色使いで描かれる風景を見て、威人は感嘆の声を上げた
「オマエ才能あるなぁ」
「天堂君も描く?」
「・・・俺美術2なんだよ」
「ああわかる。体育は10取ってそうだけどね」
「時々毒づくよなオマエ・・・」
油絵の具を器用に扱っているときの直弥は、ここ数日威人が見ていたような無表情な人物ではなかった。本当に楽しそうに、喜びを感じながら真っ白いカンバスを色づけるのを楽しんでいる
「でもこの絵が無事で良かった・・・あのとき、これ・・・落し・・・て」
「?」
「落して・・・その後・・・」
思い出せない。絵が大変なことになったような気がするのだが、紳士の描いてくれた絵は怪我をする前のままの状態だった
「どした?」
「・・・なんでもない」
いぶかしがる威人に直弥はそう答えるしかなかった。自分でも分からないのだから
「とにかく、これを完成させなきゃダメなんだ。そうしないと、ダメなんだ」
何かに憑かれたようにそう言うと、直弥は改めてカンバスに向き直って絵の具を操り始めた
(つづく)
スポンサーサイト

テーマ : 自作小説 - ジャンル : 小説・文学

2007/07/20 23:05 | 創作小説-2COMMENT(0)TRACKBACK(0)  TOP

 | BLOG TOP |