異界からの絵 (エピローグ)

小説連載にお付き合いくださった方々、ありがとうございます
これにて終幕です
ここまで書ききった上で細切れ連載をしてみたのですが、それでも細かい修正が何度も入りました
パソコンがぶっ飛んで話の腰が折られたのが、ある意味では思考をまとめるインターバルになって良かったという面もあります

余談
プロローグを見て
「もしやエロい小説!?」
と思った方は残念
ちょっとエロイのはプロローグだけです(爆


事件から3年ほど後
高校を卒業した威人は、アメリカのマサチューセッツ州にある『その手のことでは有名な』大学に海外留学し、形而学によって自分の関わる異界とはなんたるかを学んでいた
それにより彼は、己がどのように現世と異界で立ち回るべきか、少しずつ考えを変えることになる

同じ頃、ヨーロッパの画壇に不思議な絵が出回り始めた
作者は不明で、どこから流れ着いたかも分からないが、その言いしれぬナニモノかが描かれた絵は、一部の蒐集家に密かなブームを呼び起こし、それなりの高値で取引された
見るものによっては心を歓喜で見たし、ある場合には発狂せんばかりの恐怖に駆られる絵
威人はそれが、直弥の描いたものだとすぐに分かった
描かれるモチーフは現世のモノではなくなっているけれども、その色づかいはまさしくあの直弥のものだった
それは彼が、未だに人間のふりをしようとして居るという不快極まりない事実であると同時に、何らかの感性を持ち合わせた存在として"生きている"証拠でもあった
この"事件"は、威人にある決心をさせるキッカケとなった

そして、ある程度異界への対抗知識を付けた威人は、さらに2年ほどをかけてヨーロッパ中を渡り歩いて直弥の消息を追い始めた


「いつの間にか女を覚えやがって」
20代後半になった威人は、まだ10代の面影を残している"クソガキ"に毒づいた
「それは君もなんじゃないの?」
直弥は気にする風にもなくさらりと受け流す
「その余裕こいた態度、昔のオマエに見せてやりたいぜ」
「あ、傷つくことを言う」
と、威人は羽織っていたコートのボタンを外す。中から出てきたのは・・・純銀のナイフ・剣・銃弾・護符に聖水・・・その他諸々の武器武器武器。さらにはコートに隠してあった、宗教の枠を超えたあらゆる霊的な意匠の付けられた刀。目で見ることはできないが、梵字による真言だったりルーン文字による呪印さらにはヒエログリフ等々、様々な"秩序"を表すモノが練り込まれている
ヴァンパイア一匹を始末するには万全すぎるほどの装備
「・・・ちょ、ちょっと、なにそれ」
さすがの直弥も顔色を変えた。先ほどまでの涼しい顔から一転、顔を引きつらせる
「それはいくらなんでも節操がなさ過ぎなんじゃないの!?」
「オマエにお仕置きをするにはこれでも足りないくらいだ!」
言うが早いか、鍛え抜かれた足で一気に直弥に近づき斬りかかる
もちろんそのまま殺られる直弥ではないが、右腕をアッサリ切り落とされた
「・・・!」
確かに日本刀は手間さえかければ良く切れるが、そうであったとしても簡単すぎる・・・が、刀の柄に家紋代わりに埋め込まれたモノを見て、直弥は驚くと共に納得した
「ただの五芒星かと思ったら・・!」
「ふっふっふっ、節操無しの日本人をなめるなよ」
勝ち誇ったように威人が笑う。こういう反応は昔のままだ
「未練がましく絵を描く右腕は討ち取らせてもらった!」
「・・・くっ」
もはや直弥にはこの程度は痛みでもなんでもない。放っておけばそのうち再生できる。ただし再生能力の高いヴァンパイアでも、あのいにしえのアーティファクトに傷つけられては、そうそう回復することができない
威人は勝ち誇ったように切っ先を向ける
「というわけで、右腕が生えるまで、絵を描くのはしばらく止めろ」
言いながら、威人は刀を鞘に収めた
突然のことに直弥はきょとん、と威人を見返す
「俺としては金輪際止めて欲しいんだが」
「・・・何故?」
「気付よ。オマエはやっぱりもう人間じゃない。オマエにはオマエの生きている世界があるだろう・・・その世界を視るために人間を止めたオマエが、人間のフリをするのはフェアじゃないだろ?」
ふぅ、と威人が吐いたため息が、夜の冷気に触れて白い色を帯びる
「それに・・・オマエのご主人サマも暗に言っていただろ
オマエにとって人間は、結局餌でしかない
俺たちにとって、オマエらは生命を脅かすバケモノ
言葉は通じても倫理が違う。だから、餌を求める以上のことのために、人間世界に首を突っ込むもんじゃない・・・人間は、オマエの芸術を理解させるための相手には、決してなり得ないんだ、決して・・・」
「・・・ヒトに見せる絵を描くのが趣味のヴァンパイアが居ても、良いじゃない?」
「考えが甘いんだよ、割り切って行動しろ・・・俺とオマエがこうして再会したとしても、絶対に同じ立場には居られないように、いつかその中途半端さで取り返しの付かないことを起こしかねない」
これが、この数年の間に威人の出した答えだった
異界に関わるもの、異界から関わってくるものが"悲劇"をもたらすとき、それは決まって深入りしすぎたときである
だたそこに"有る"だけなら何も問題がなかったものが、ちょっとした気の緩みから何もかもを台無しにする
たかが絵とはいえ、異界の風景を人間に見せるという行為が、のちに何を引き起こすかも予想がつかない
「俺は俺なりの主義がある。別にオマエをここで殺さない。ただし、性懲りもなく絵を描くようなら、そのたび"お仕置き"に行くから覚悟しておけ」
そう言うと、威人は踵を返してその場を立ち去ろうとした
「・・・でもさ、そうしたら僕は何度でも威人と逢えるって事だよね?」
「は!?」
呆れた顔をして威人は振り返った
「僕が絵を描く度、ソレが人間の手に渡る度、君は僕を捜してくれるって事だよね?」
直弥は"心底嬉しそうな"顔をして威人を見た
「君という友達に会えるなら、僕はそう言うのも一興だと想って愉しむよ」
「・・・オマエは馬鹿か?"餌"が友達とか、それは人間が"自分が育てた豚が可愛くて殺せません"って言ってるのと同レベルなんだぞ?そういうのをヴァンパイアの"本能"は許容するのか?」
あまりにも予想外の反応に、威人は目を丸くした
「君は"餌"なんかじゃない・・・本当に友達だよ、今となっては唯一の」
「・・・ほんっ~とーにどうしようもない馬鹿だな・・・ご主人サマは苦労してるだろうよ」
「こんな手段で僕を止めるだけにしておく君も、人間から見たら相当馬鹿なんじゃないの?」
「ほっとけ」
ばつが悪そうに威人は頭をかいた。昔のままだ・・・直弥は眼を細めた
「ふふっ・・・」
「はっ・・・」
お互いばからしくなったのか、笑った
あきれるほど笑い合った

やがて、直弥の姿が徐々に夜の闇に溶け始めた
「ご忠告に従って、しばらくは大人しくするね・・・」
"やさしく"微笑みながら直弥は言う
「ああ、そうしてくれると助かるな」
"話の分かる奴のままで良かった"と彼は心の中で想った
「じゃぁね、威人」
「またな、直弥」
短い挨拶を交わしたすぐ後には、ただ一人威人だけがその場に残されていた
これで、いいのかもしれない
彼は長年ため込んできた膿を吐き出したようにすっきりしていた
お互いの生きる立場を見つけ、その位置でわきまえて行動さえすれば、結局現世に生きるものも異界に生きるものも同等なのだと、今始めて実感した
わきまえない馬鹿には、お仕置きすればソレで良いんだ
きっとアイツはわきまえない
2年もすれば開き直って絵を描くだろう
そうすればまた逢える
笑い合える

それまで俺がやることは、とりあえず組織に言い訳をし続けることと、仕事で死なないことだけだ

朝日が昇ってきたのを確認すると、彼もまた人目に付かないように街から姿を消した
またお互いに逢える日までを無事に過ごすために
(おわり)
というわけで
この話はここまでです
お読みくださった方の中には、なんとなくお察しの方も居られるかと思いますが、これには少なくとも前編として、もう一つお話がないと辻褄が合わない部分があります
それも考えてはあるんですが、機会と作成意欲があれば・・・
なんせモロに悲惨な話なので、途中で管理人が力尽きそうで怖いですw

いろーいろ考えてたら、すげー長いシリーズ小説になりつつあるので、どっかでセーブしないと・・・ハァ(苦笑)
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2007/07/26 22:00 | 創作小説-2COMMENT(0)TRACKBACK(0)  TOP

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