【書評】アスペルガー症候群の難題

Amazonで本を買うのも良いですが、たまには実際の店舗に行って、チラ見をしてから本を買うのも必要です
そんな機会で出遭ったのが、今回の書評『アスペルガー症候群の難題(井出草平著)』です

アスペルガー症候群の難題 (光文社新書)アスペルガー症候群の難題 (光文社新書)
(2014/10/15)
井出 草平

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タイトルから誤解を招きやすく、非常に難しい問題を扱う内容であるため、読んだ人によってそれぞれの意見が現われるであろう本である
問題提起として良いと思うものと、本自体を罪悪とするものと、大きく二つに分かれると思われる
それはこの『アスペルガー症候群』という症例そのものが、一般社会において意見を二分するものである、という部分にも関連する
しかし、臭いものに蓋をする考えでこの本を読むのでは無く、一つの方向性と症例の客観的評価として、中立的な立場を取って、つまり「読み物」として読んで欲しいと思う


何故自分がこの本について述べるのか
それは主自身が「アスペルガー症候群」の診断を受けているからである
なお知らない人も多いので一応書いておくが
現代の研究上、アスペルガー症候群は遺伝的・先天的な脳機能障害の一種と考えられており、後天的に発生するものでは無いと言われている。なので、一応は「障害者」である
しかし、見た目には健常者と何ら変わりなく見え、何も知らなければ「ちょっと変な人」にしか見えない
これがアスペルガー症候群について考えるに辺り、重要なポイントになる


それは、鬱病を患って数年後に気づいたことだった
本来であれば治っていて良い症例、あるいは繰り返される症例、そう言った物が自分で気になり始めたのだ
例えば
物忘れが激しいこと
同じ過ちを繰り返す理由が分からないこと
人との会話でつまづきが多く、そのために会話困難に陥ること

それらは鬱の発症から来るもので、症状が軽くなれば治ると思っていたものだった
だが、いつまでも尾を引く

しかし、実際はこのように鬱に陥る前から、コミュニケーション能力に劣っている自覚はあった
それを治したいと思うが為に、一念発起してパソコン教室のインストラクターという、とにかく誰かと会話していなければ成り立たない仕事を選んだ経緯もあった
ところがそれが、性格の改善に寄与するどころか、実際は鬱を助長することだったのでは無いかと思い至り、もしやと思って病院にてテストを受けた結果のことであった

アスペルガー症候群の諸症状の発現のため、結果として今まで社会で適応して来れず、鬱や適応障害を併発していたことが分かったのである
さて、この本の副題は、アスペルガー症候群と犯罪の親和性を考えることである
注意していただきたいのは、これを本書の本題として捉えて読むと、ただ「将来の犯罪者捜し気分」を助長するだけ、ということである
本の意図は、アスペルガー症候群と言うものによって起きる、発症者とそうで無い者との間にある「乖離」がどう言うものであるかを示し、そこに気づく要因をその他大勢が探っていくことにより、「乖離」を少なくする或いは「援助」を行う機会を増やす必要がある、と言うことを述べていることにある(と、自分では感じる)

これが本の帯の通り、「科学的な視点で犯罪との関係性を考える」、という事在りきでアスペルガー症候群を語っていたら、書評として語らないし本自体買わない
だったら主だって犯罪者予備軍だと言うことになる

だが自分で言うのもなんだが、主は警察にも何にもお世話になったことは一度も無い
兄弟の非行の関係で、主もなんかやらかしてるんじゃ無いか、と警察に疑われたことがあったが、やらかすも何も経歴が真っ白だったんで、逆に関係者に謝られたことがあるくらいだ
まぁこういう障害(だった)ので、学校でいじめの対象になったことはしばしばあったが、逆にそれ以外のところで問題児だったと言うことも無かった
落ち着きが無いとか、暴力を振るうと言うことも全くなく、むしろ感情が無いと言われたほどである
だから、兄弟の非行の理由も、ましてやちょっとした軽犯罪の理由にも、共感なんか全くできない
つまり、反社会的と言われることに考えが及ばない
以前記事で書いた事もあるが、自分の行いによって起きることにはむしろ人より敏感で、対価と責任を果たせないことをやることは、逆に許せないタイプである
もっとハッキリ言うとすれば、ルールと言う事項から逸脱できない面がある
これもアスペルガー症候群の一症状なのだが・・・

ネット上では、アスペルガー症候群の症例をかじっただけの人が、これ見よがしに反社会的と思える人を「アスペ」と罵るが、この先天的症状への対応がそれで良いのか、と言う問題提起がテーマであると捉えて読んで欲しい
先にも述べたとおり、現代社会の中で問題なのは、その反社会的或いは乖離が「なぜ」起きているのかということを、「普通の人」が正確に知らないことにあるということである
それを、実際にアスペルガー症候群の症例を下された「犯罪」を分析することにより、どこが「違っていた」から「反社会的になった」なのかを述べていることが本の内容の重要な部分である

だが、この点がやや分かりづらく書かれているのが、この本の惜しいところではある
何とか科学的見地から研究していることを示すべく、様々な数値データ(例えば、家庭裁判所に持ち込まれた犯罪者の中の、アスペルガー症候群診断数など)を示して居るが、アスペルガー症候群に理解の無い人、もしくはこの症状に恐怖を抱く人からすると、犯罪率の高さを逆立証しているように見える事もあるだろうからだ

著者が注意深く、随所で
「(関連事件の一覧だけ見ると)、アスペルガー症候群=犯罪者という印象を持ってしまうかも知れない。しかし、それは短絡的な理解だと思う。かと言って全く関係ないのかというと、そうではない。事実はそれほど簡単では無い」
と繰り返しているのは分かるのだが、それであればもう少し本の内容を踏み込んで、犯罪者では無いアスペルガー症候群の者が抱える苦悩と、その周囲の苦悩についても語って欲しかったと思う
著者の示す犯例の中で、アスペルガー症候群であることを知らず、それ故に何故自分が浮いているのか、何故治せないかを苦悩し続け、何とか適応しよう一念発起したのが、逆に仇となって犯罪に手を染めてしまった例もある
この症例の「彼」の苦しみは、主にとっては他人事では無いのだ

アスペルガー症候群の提唱は1944年と半世紀以上前だが、俄然注目されるようになったのはここ十数年である
そのため、よく例えとして「大人の発達障害」と言われるように、鬱の源やパーソナリティ障害の元を探っていったら、実はアスペルガー症候群だったのではないか、と今になって言われる大人が急増している現実がある
主がまさにそうであるように

先天性障害があるという事が分からないが為に、「変わり者」「異常者」として、一般社会において倦厭され除け者にされ、そのために後から心の病を併発してしまう
それが極端に発動した例が、「犯罪」に帰結してしまうことを、著者は危惧しているのである


文体としてそれが分かるのは、自分がそのものズバリ当てはまるからであるからだ
だが再三言うように、アスペルガー症候群への偏見を持つ人からすれば、この本はあるいはアスペルガー症候群隔離・排除の口実にもなりかねない、危険な側面がある

新書という限られた文面で、書くことを絞った結果、そういう「症例者からの危惧」への視点が、抜け落ちてしまったのかも知れない
そうだとしたら、尚更惜しい内容だ

願わくばこの本を手に取り読む方が、そうした偏見を持たないことを願いたい
不安に思うこと、気がかりなこと、心を乱す物事であっても、まずは中立的視点に立ち、俯瞰する「落ち着き」が必要だ
そうした静かな心で事を読むと、実際にはその不安を与える対象が、救いの手を求めて苦悩しているか、もしくは救われることを理解できないでいるかなど、根本的な問題が見えてくることもある

アスペルガー症候群には、共感性に乏しいという側面がある
それは相手の気持ちが分からないだけでは無く、自と他の違いにも考えが及ばないということにも繋がる
結果として、自分の何かが人を害するかどうか判別が付かない、ということになることがある
これは互いにとって悲劇だ
その悲劇を防ぐために、社会全体で悲劇が起きるきっかけを見つけ、無くし、フォローしていこうと言うことを著者はまとめで述べている

もちろん、世の中にはアスペルガー症候群と比して、もっと深刻な難病は山のようにある
ただ、それは概して目に見て判りやすいし、場合によって治療法が確立していることもある
しかし、何度も言うように、アスペルガー症候群は「見た目は普通」であり、多くの場合知的障害も抱えていないうえ、先天性で有る故に治療法も確立していない
アスペルガー症候群の顕著な症状は、ほとんどの場合10代に入る前になりを潜め、分かりづらくなってしまうので尚更なのだ

そう、なりを潜めているだけで、主もそうであったように、いつまでもその諸症状に人知れず苦しみ続ける

このようにならないうちに、せめて今の子供の世代だけでも、成るべく早い段階でそれと気づき、支援対象となることができればいい
著者はおそらくそのような思いで、この書を著したのでは無いかと思いたい

障害に
世の中のちょっと変な人に
偏見を抱かずに接することを少しでも考えたら
この本をまずはただ一度、無の心で読み流して欲しい
障害との戦いというのは、意外と身近なところで
すぐ隣に座っている友人や兄弟が
実は一人で孤独に行っていることかも知れないのだ
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テーマ : 書評 - ジャンル : 本・雑誌

2015/01/12 20:20 | 雑記COMMENT(0)TRACKBACK(0)  TOP

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