書評 生物ミステリーPRO「エディアカラ紀・カンブリア紀の生物」

うp主はゲームやアニメの話を主にしていますが、実際には科学のお話も大好きです。
化学の方は苦手ですが、生物学・惑星科学などが特に好きです。
もちろん好きなだけで専攻しているわけではありませんかので、その道の方からすれば単なるアマチュアですけどね

さて前置きはここまでにして
今日は久しぶりに古生物学の良い本に巡り会えたので感想を記載したく
それが今回のタイトル 生物ミステリーPRO「エディアカラ紀・カンブリア紀の生物」です

著者は、この業界では著名の土屋 健 氏
科学雑誌ニュートンでの日本語に関する編集では非常に有名で、かつ分かりやすい解説を書かれることで、自分も昔から存じ上げていた方です
そう言う方と、群馬県立自然史博物館がタッグを組んでいるという点で、この本は入門書としても目の肥えたアマチュアにもお勧めできます


この生物ミステリーPROは各地質年代ごとにまとめたシリーズ刊行されており、今回のご紹介は生物発生直後(といわれる)カンブリア紀頃の状況について、フルカラーの化石図表をふんだんに使いながら説明してくれます。

最初に申し上げておくと
こう言った科学雑誌や解説本の類いは、日本独自で発行されるモノの質はお世辞にも良くない、と個人的には感じます。
これは決して日本人の科学者が駄目というわけでは無く、どちらかと言うと出版する側、企画者側の「ウケ狙い」の姿勢に問題があると思われます。
一つ悪い例を挙げるなら、昨年公開され特別展示も行われたNHKの「生命大躍進」があります。
上野の国立科学博物で開催された展示博は大変素晴らしかったのですが、肝心のNHK特集がてんでお粗末でした。あくまで科学番組であるべき所、某アイドルを起用して稚拙なドラマを挿入するなど、視聴率を上げるためと言わんばかりの仕掛けに辟易しました。
1994年の「生命 40億年遙かな旅」は中々の出来だったのに、どうしてこうなった。

同じようなドラマを挿入するにしても、海外の科学番組は質が違います。ワクワクさせる仕掛けが良く練り込まれているのです。(特にBBC系のものなど)
同様に、科学論文をまとめた書籍というモノは、やはり海外の科学者の著書を翻訳したモノが非常に多く、そしてその質も良くまとまっていて勉強になるものです。
そう言った中、今回の本は純粋に日本人の方が著者であり、日本人の視点でかつ純粋に科学を著している点で評価できます。
(しかもこの内容で価格がお手頃なのがすごい!)

さて、少々古生物学をかじった方なら、カンブリア紀の生物というと、この本の生物を思い起こされる方が多いかと思います。

この本で紹介された、アノマロカリスやハルケギニアなど、スティーブン・J・グルード氏が解説する「カンブリア爆発」で現れた生物の面白さ・奇っ怪さには当時心を奪われたものです。

今回の本にもそれらは出てきますが、前述した「ワンダフルライフ!」が著されてからすでに20年近く。
「彼ら」に対する研究成果も飛躍的に向上しており、正体不明とされてきた生き物たちが、その後どうなったかが過去の論文と比較され、分かりやすく説明されています。

自分が今回知って「ほぉ」と勉強になったのは、今まで動物年代で最初とされてきたカンブリア紀の前に、エディアカラ紀が設定された、と言う記述。
元々、カンブリア大爆発と称された時代の前、エディアカラ生物群という別生態が有ったのは知っていました。それらは後の生物に比べると硬組織が無く、まるで動くキルトや絨毯のようで、明確な前後も判らないような「生き物」でした。
(そう言った生物の化石が何故残るかというと、それが「頁岩」と呼ばれる、細かい砂の層からできた地層に、主に酸欠の状態で素早く埋葬されたため、と言われています。そう言った状態では軟組織は腐らず、身体の印象が化石に残りやすいのです)
そんな「異質だけど平凡」と言われたカンブリア紀以前の生き物達が、一つの時代を現す基準になったと言うことは、それだけエディアカラ生物群の研究が進んだことを意味しているのでしょう。

研究が進んだと言えば、それこそがこの本の主題を成すカンブリア紀の生物です。
「ワンダフルライフ!」が著された20年前、アノマロカリスもオパビニアも、現生生物との関連性が無い(判らない)、孤立した絶滅生物群とされていました。
それらが現在では、蠕虫の仲間である「鰓曳動物」、カギ虫の仲間の「有爪動物」、今日最も繁栄している生物である昆虫を含む「節足動物」と言ったような、私たちがそれなりに見慣れた生き物のと何らかの繋がりがある、と徐々に整理されているのです。
また、そのように研究が整理された過程も説明されており、生物学において何がどのように判定され、科学が全体としてどう発展していくのか、という部分をきちんと描いているのも評価できるところでしょう。

これ以外の部分で、個人的な見所をいくつか。
まず冒頭の「原始生命とはいかなるモノか」とう部分にて、まるで生命の胚(要するに受精卵)そのものの姿をした、ミクロの化石があると言う部分。
本当に「胚」なのかは議論されて居るそうですが、写真を見る限りはどこから見ても「割卵状態の胚」にしか見えません。
そもそも印象が残ることすら稀な軟組織、しかもミリサイズの「胚」が化石になっているのが驚きです。

そう言った小さな生物については、カンブリア紀に関する記述にもあります。
現生動物で言うと「ダニ」や「シラミ」のような、ごくごく小型の生き物の化石が、やはり出てくるのだと言います。
それは、頁岩を構成している石灰岩を溶かし、そこから残った欠片を顕微鏡で観察することで初めて判るのですが、その画像が実にすごい!
全長2ミリも無い生き物、しかもおよそ5億年も前の存在が、こうしてハッキリ姿を現すなんて想像もできませんでした。
これに気づく学者さんに脱帽するほかありません。
それにしても、ここに記載された「カンブロパキコーベ」なる生き物のエイリアン感は半端ありません。
身体自体はダニによく似ているのですが、頭部にたった一つの巨大な複眼がボンッと付いているなんて!

正面を見据えるその「眼」で、彼らは何を見ていたのか、ワクワクする復元図+化石標本は一見の価値があります。

そして、書本中程から始まる「三葉虫コレクション」も見物です。
三葉虫は俗に「指標化石」の一つとされます。
長い年代で命脈を保ち、多彩な変化をしつつ生き残っていったことから、ある形の三葉虫が地表から出土すれば、同時期に出土する化石の年代の目安になるわけです。
コレクションではこの時代からすでに彼らの多様化が始まっており、豊かな生態系の一翼を担っていたことが記されています。
美しい三葉虫の発掘化石は、その様をありありと示してくれていて、目の保養にも学習にも非常に有用でしょう。

最後になるほど!と感じたのは、それまでのエディアカラ生物群と違うカンブリア紀の変化の特徴として、カンブリア紀の動物群の行動によって、海底面に「農耕」現象が起きた、ということでしょう(著者は「カンブリア紀の農耕革命」と記述している)。
それまで受動な存在だった生物が、眼を持ち構造体を形成し、活発に動き回るようになった結果、生活様式が激変。
その中から、行動選択の中に「海底面の下に潜るって生きる」「逃げるために海底に潜る」という行動が発生。
この生物の行動が、結果として海底と海中の物質の循環を促し、海の環境を変化させるきっかけになった可能性がある、というものです

現代でも、ミミズのような生き物たちが地中に居て、その生命活動によって大地を耕してくれているのと同様、ごく初期の生き物たちの選択した生き方が、地球の環境を豊かに、変化をもたらすきっかけになったのでは、という考察はなるほど的を射て居るように感じます。

ここまでの記述にあるように、今回のカンブリア紀に関する記述は5億年も前のお話で、現生人類からはほど遠い存在に見えるかも知れません。
しかし、生き生きと描かれた復元図を見て頂ければ、彼らを知ることが別の意味を持つことをご理解頂けるかと思います。
つまり、生き物はすべからく美しいのである、と言うことです。
前述したように、かつてのカンブリア紀生物は、現生生物との関連性の無い、進化の負け組として見られていました。
原始的で頼りなく不格好で、何のために生まれたのか理解に苦しむのだ、と。
けれども、本書に描かれた彼らからは、そんな空気を感じません。
なぜならそれは、彼らが自らが生きた時代に合わせて、相応しく適応した姿をしているからでは無いでしょうか。
アノマロカリスの異様とも見える巨体や、恐ろしげな触手と口蓋も
オパビニアの5つの眼も、掃除機のような触手器官も
全てあの時代を生きるために必要だから得たものなのだと。
やがて彼らが滅びたのは、その適応がたまたま適さなくなったに過ぎないのです。

そう考えると、チャールズ・ダーウィンが発展させてきた「進化」という言葉と概念は、今や「適応」という言葉に差し替えた方が学術的にも良いのでは無いか、と思うのです。

シリーズは次なるシルル紀やオルビス紀へと刊行を続けています。
こんな良いモノが、3年も前に世に出ていたなんて、なんて勿体なかったんだろう!
本自体はハードカバーなのでかさばるかも知れませんが、自身の知識のためにもお子様の科学知識発展のためにも、ぜひぜひ手に取ることをお薦めします。

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テーマ : 博物学・自然・生き物 - ジャンル : 学問・文化・芸術

2016/05/07 19:10 | 本の感想COMMENT(0)TRACKBACK(0)  TOP

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