書評「鳥類学者 無謀にも恐竜を語る」

退院して3週間
歩行もだいぶ普通に戻ってきました
退院後の診察が来週なので、それ次第で仕事に戻れるか否かが判明する予定です
その前にスパロボVが発売されますが


さて、今日の記事は書評

これは入院前に購入していた本で、タイトルに相応しいふざけた(褒め言葉)本でしたので、ご紹介いたします
「鳥類学者 無謀にも恐竜を語る」


この本のタイトルだけ見ると、お門違い分野の鳥の学者が、何を間違えたか恐竜を語っている、ように見える
しかし、実際に内容を読み解くとこれは、ごく分かりやすく鳥類の進化史を語っている本である

それでもこの本を薦めるのは理由が2つ有る
まず、鳥と恐竜の両方の生物について、大きな知見が得られること。まさしく一石二鳥である
そしてもう一つは、科学の本であっても、ウィットに富んだジョークを飛ばせる文才があれば、こんなに面白い本が書けるのだ、と感銘を受けられることだ


科学論文や各種仮説を語る書籍というのは、得てして読みづらく難解である事が多い
特に新しい仮説、注目されるべき新しい視点を論ずる場合、その傾向が強い
それは、この本と同時期に購入した「恐竜は何故鳥になったか」でも当てはまる
同著において、著者のピーター・D・ウォードが語りたいのは、生物進化史において「地球上の酸素濃度」がいかに重要な要素であり、生物の形を決めるきっかけとなり、その後の繁栄と絶滅に影響を与えているか、と言うことである
(その結果として、恐竜類から鳥類が生まれた)
地球の酸素濃度は、過去35億年の間に大幅な変動があるのは研究済みで、これに自らが得たデータや他の研究結果を通じて進化や滅亡のきっかけを主張している
が、とにかく内容は「そのことだけ」なのである
進化という物は非常に複雑な要因が絡むが、その中の酸素濃度にだけ特化して論が展開されている
逆に言うと、それ以外の進化要因(の仮説)は、読者が知っている前提だったり省かれたりしている

同じような傾向は、1980年代に発行されて一大センセーションを引き起こした「恐竜異説」でも見られた
同書は、恐竜学会でも異端児として知られる、ロバート・バッカーとジョン・オストロムが関わっている書籍で、それまでのろまで巨大なは虫類(=変温動物)という定説で通ってきた恐竜が、実際は恒温動物であろうという説を、ダイナミックな復元図と研究結果を基に解説したものだが、当時はあまりに先鋭的すぎて、まるでキリスト教の異端裁判みたいに学会のやり玉に挙げられていた
個人的には良くできた本だと思ったものの、内容として彼らは「恐竜は恒温動物で間違いない!否定すんな!!」的に文章を書いており、変温動物説自体を無視して持論の展開に集中していた

このように、科学の本というのは主体とすべき論に集中しすぎ、冷静な比較や反省が無く出版される場合が多い
ハッキリ言えば、そういうセンセーショナルな内容の方が、売れるからであろう
それ故、つまらない


因みに前述の二人の学者は、(恐竜の)獣脚類から鳥類が進化したという説を熱心に支持して、それ故に恐竜も恒温動物であったとの持論でもあったが、当時はこの問題もまだデリケートな状態で、それ故に彼らに良い印象は持たれなかった
2000年代において、ようやく獣脚類と鳥類の類縁関係がある程度認められ、恐竜の恒温性についても比較的議論が落ち着いている(結論は出てないが)
なお獣脚類というのは、ジュラシック・パークで皆さんにおなじみの、ヴェロキラプトルやディノニクス、果てはティラノサウルス類をも含んだ、主として肉食をする二足歩行をする恐竜のことである

お子様大好きのブラキオサウルスなんかは、竜脚類というもので
トリケラトプスなんかは、鳥盤類の角竜類等という
ご興味のある方はその手の本をお読み下さい
さて、今回の本である
この本は前述の書のようにつまらなくは無い。断言する

まず、鳥の視点から恐竜を見るというのが新しい
今までは進化の説明上、古い物(恐竜)から新しい物(鳥)にどう関連するか、と言うことを語った本が山ほど有ったが、既に観察され研究もされている生物である鳥から、じゃあご先祖の獣脚類ってどうだったのよ、というのをちゃんと語った本は珍しい
(どうしても恐竜の比較対象は、ワニや蜥蜴になってしまうからである)
しかもこれを恐竜学者では無く、当の鳥類学者がするのである
今や(ほぼ)定説となったとは言え、鳥が獣脚類から進化したことを前提に、鳥を研究する人は(たぶん)居ない
だから、本文で著者も言っているとおり、鳥しか専門的に判らない学者が一人で恐竜を語ると言うことは、その手の分野の人からすれば完全に門外漢なのだ(著者曰く、「自分は偏見まみれの鳥類学者」

でもこの本からは、「いいじゃん!鳥は恐竜だし、恐竜は鳥でしょ?だったらいいじゃん。鳥から恐竜を想像してもいいじゃない!!」っていう、著者の熱い恐竜への萌え(笑)が伝わってきて可愛い
それがいい

そして、その鳥の視点から恐竜を掘り下げることで、それまでの恐竜本に無かった着眼点を多数あげているのが評価できる
例えば、鳥は捕食者から逃亡するため、羽を抜くことがある(自分も良く知らなかったが)。また、一部のは虫類における、「蜥蜴の尻尾切り」も引き合いに出し、じゃあ祖先の恐竜だって尻尾切りできたんじゃない?、と言うのは物凄い発想であると同時に、その想像図に腹を抱えて笑わせてもらった
また、恐竜の色を考えるにあたっても、現生鳥類の生活の場から色を考察する
かと思えば、鳥類のくちばしが、失われた前肢の代わりになっているという説明と、逆説的に前肢が残っていた祖先の恐竜の器用さを考察する
面白い点を挙げればキリが無いが、これらは全て鳥を視点にして恐竜を見ているからこそ、斬新な着想点となるのだ

あとは、ところどころ遊び心の有る言葉出るのも良い
恐竜の歩き方を説明するのに、獲物に喜んでスキップすることもあったかも、という文章が出てくる
恐竜に歯がないのは、寝る前に歯磨きについてお母さんに叱られなくて便利だ、と言ってくる
恐竜の求愛行動を語る時に、ダンシングな姿を取ったかもと表現してみる
恐竜の大きさを語るにあたって、18mという体長高を説明するために、突然ガンダムを引き合いに出してくる
竜脚類の群を想像するにあたり、その迫る様をMS1個大隊と説明する
判るようで判らないが、喩えが面白くて笑ってしまう

だが、こう言った日常の話題と科学を結びつけて語る事ができるのは、その著者が一流の学者で有る証である
自らの分野の本質が判るからこそ、一般的な他の話題に話を転化できる
それがこの本の真なる価値である
専門知識を持たない一庶民が、科学を楽しむきっかけになり得る、近年稀に見る希有な内容と言えよう

時に科学とは、調べ上げた事実を公表するのでは無く、ユーモアを交えて「お披露目」しなければ、人にとって有益な情報にならないのかも知れない
この本はそれを教えてくれる
色々な意味で秀逸な内容である
是非ご一読をお薦めする
スポンサーサイト

テーマ : 読書感想 - ジャンル : 本・雑誌

2017/02/15 19:22 | 本の感想COMMENT(0)TRACKBACK(0)  TOP

 | BLOG TOP |